売主の担保責任の期間制限

不動産あるある
09 /28 2022
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Q.
2020年4月に施行された新民法では、売主の担保責任の期間制限について、仕組みが変わったと聞きました。売主の担保責任の期間制限は、どのような定めになっているのでしょうか。

Answer
1.知った時から1年以内の通知
売主の担保責任については、①買主が目的物のキズ(不適合)を知ったときから1年以内に通知をしなければ買主の権利は失効する(失権効)、つまり、1年以内に売主に通知をすれば、売主に対する契約不適合責任を追及する権利は保全される、②ただし、売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じない(権利は失われない)とされています。また、③1年以内に通知したとしても、その後売主に請求をすることなく所定の期間(5年または10年)が経過すれば、買主の権利は時効によって消滅します。
2.売主の担保責任の期間制限
(1)1年以内に通知をすること
売主の担保責任については、民法改正によって、瑕疵担保責任から契約不適合責任に改められたのに加え、期間制限も見直されています。
改正前には、買主が瑕疵を知ったときから1年以内に請求をしなければなりませんでしたが(改正前の旧民法566条3項)、改正後には、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合(契約不適合の場合)において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定められ(改正後の新民法566条本文)、キズを知ったときから1年以内に通知をすればよいものとされました。新しいルールでは、目的物のキズについては、買主に通知の義務を負わせ、1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われますが、1年以内に通知をしておけば、1年以内に請求までしなくても、権利は失われません(「買主の通知義務+通知懈怠(けたい)→失権効」のルール)。請求については、1年経過の後でも差し支えはなく、例えば中古住宅に雨漏りがあった場合でいえば、雨漏りを知ったときから1年以内に雨漏りの事実を通知しておけば、修補請求や損害賠償請求などは、知ったときから1年後以降であっても可能です。
(2)売主の悪意・重過失
もっとも、新民法566条は、上記の本文に続けて、「ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない」と定めました(同条ただし書き)。目的物のキズを知っている売主などを、通知がないという理由で免責することは相当ではないと考えられることから、失権効に例外を認めています。売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じないということになります。中古住宅に雨漏りがあったケースでは、売主が引渡しの時に雨漏りがあることについて悪意・重過失があれば、買主が雨漏りを知ったときから1年以内に通知をしなかったとしても、買主は修補や損害賠償を請求することができます。
(3)消滅時効
改正後の新民法では、消滅時効についてもルールが改められ、 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときには、債権は時効によって消滅するとされました(同法166条1項)。
売主の担保責任についての買主の権利は、「買主の通知義務+通知懈怠→失権効」のルールによって消滅することがありますが、たとえ1年以内に通知を行って権利を保全していても、その後権利を行使することなく、5年または10年が経過したときには、買主の権利は時効消滅することになります。
3. 移行期における民法の適用関係
新民法の附則には、施行日前に売買契約が締結された場合におけるこれらの契約および契約に付随する買戻しその他の特約については、「なお従前の例による」と定められており(附則34条1項)、売買契約について改正後の民法による売主の担保責任の期間制限についてのルールが適用されるのは、2020年4月以降に締結された売買契約です。
<民法改正前と改正後の期間制限の比較>
画像 民法改正前と改正後の期間制限の比較

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今回のポイント
引き渡された売買の目的物にキズがあるときには、買主は、キズを知ったときから1年以内に売主に対してこのことを通知しなければならない。1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われる。
買主は、目的物のキズを1年以内に売主に通知をすれば、契約不適合責任を追及する権利が保全される。補修や損害賠償を請求する時期は、1年を経過した後でもかまわない。
売主が引渡しの時に目的物のキズを知り、または重大な過失によって知らなかったときは、買主が1年以内に通知をしなくても、契約不適合責任を追及する権利は失われない。
買主は、1年以内に通知しても、その後権利を行使することなく、権利を行使することができることを知った時から5年(または、権利を行使することができる時から10年)の間権利を行使しなかったときには、買主の権利は時効消滅する。
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋
1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。

遺留分侵害額の請求

不動産あるある
09 /26 2022
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Q.
民法(相続関係)の改正によって、遺留分の制度が見直され、中小企業の事業承継を行いやすくなったと聞きました。どのような改正がされたのでしょうか。また、円滑な事業承継のために、ほかにどのような制度があるのでしょうか。


Answer
1.民法の特例により円滑な事業承継へ
2018(平成30)年に民法(相続関係)が改正され、遺留分の仕組みが改められています。改正前には、遺留分権利者には物権的な請求権が認められていましたが、改正後には遺留分権利者の権利は金銭請求となり、これによって、事業承継へのひとつの支障が取り除かれることになりました。また、2008(平成20)年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)が制定され、同法では遺留分について、民法の特例が認められているため、その特例を利用すれば、民法の遺留分の制約に縛られることなく、事業承継を行うことができます。
2. 遺留分の制度
遺留分は、被相続人の相続財産の中で、兄弟姉妹以外の相続人のために留保される取り分です。相続人の生活を保障する、相続人間の公平を図るなどの目的のために、被相続人の遺言と贈与による自由な財産処分に制限を加え、遺留分権利者の取り分を確保することができるように、民法に定められています(民法1043条、1046条)。
遺留分が認められる遺留分権利者は、妻、子(子がいなければ孫)、直系尊属です。兄弟姉妹には、遺留分の権利はありません。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合は1/3、それ以外の場合は1/2です。
3. 民法(相続分野)改正による遺留分の制度の見直し
(1)民法(相続分野)改正
民法のうちの相続分野については、1980(昭和55)年に法定相続分を改める改正があってから40年間、大きな改正はありませんでした。しかし、その間、高齢化が進み、情報化社会が進展するなど、社会は大きく変化しています。そのために、2018(平成30)年に、相続についての民法改正が行われました。高齢化した被相続人の配偶者の権利を強化し、また、遺言を利用しやすくするなどの見直しが行われました。いずれの改正も2020(令和2)年7月までに施行されています。
(2)遺留分の制度の見直し
改正前の従来の民法では、遺留分権利者には、遺留分を侵害する遺贈・贈与を減殺し、遺留分権利者が保持すべき財産を物権的に回復する権利が認められていました(遺留分減殺請求権)。請求権を行使すると、請求の範囲で贈与・遺贈の効力が失われ、現物による返還義務が生じることになります。
しかし、このような構成は、法的に複雑で混乱を招きがちであり、事業者の事業承継にも支障を生じさせます。
そこで、改正によって、遺留分制度は再構成され、遺留分権利者の権利について、物に対する権利ではなく、侵害額の金銭請求(計算方法は図表)を認めるものに改められました(金銭債権化)。これによって、中小企業の経営者個人の相続においても、遺留分権利者との関係を金銭によって清算することが可能になり、経営のための物的な資源を、円滑に承継することができるようになっています。
図表 遺留分侵害額の計算方法
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4. 経営承継円滑化法
2008(平成20)年に制定された経営承継円滑化法では、民法の特例を定めており、経営承継円滑化法に定められた手続きを踏むことによって、民法による遺留分の制約を受けずに、事業を承継させることができます。特例において想定されているのは、①相続財産のうちのある物の価額を遺留分算定基礎財産に算入しない仕組み(除外合意)、②遺留分算定基礎財産に算入すべき価額をあらかじめ固定する合意(固定合意)の2つです。会社の経営の承継の場合は ①・②のいずれか一方または双方を、個人事業の承継の場合には①のみを利用することができるものとされています(中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル「民法特例」。令和元年7月中小企業庁財務課)。
5. まとめ
日本の経済は、中小企業が支えています。しかしながら、中小企業でも経営者の高齢化が進んでおり、また、コロナ後の新しい社会への対応も急務です。中小企業の経営が円滑に後継者に承継されていくことは、個々の企業にとって必要であるだけではなく、社会の要請でもあります。中小企業の経営者のみなさまには、事業承継の新たな仕組みを理解したうえで、十分に制度を活用し、円滑な事業承継を進めていただきたいと考える次第です。
今回のポイント
民法は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分の権利を認めている。遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人のために留保される取り分であって、相続人の生活保障や相続人間の公平確保のために認められる権利である。
民法(相続分野)の改正によって、遺留分権利者の権利が、物権的な請求権(遺留分減殺請求権)から、金銭請求に改められた。
遺留分の制度の見直しにより、中小企業の事業承継にあたって、柔軟な対応をすることが可能になった。
経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例を利用すれば、民法の遺留分の制約に縛られることなく、事業承継を行うことができる。
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋
1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。

隣室賃借人の迷惑行為と賃貸人の責任

不動産あるある
09 /25 2022
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Q.
賃貸マンションを経営しています。ある入居者から「隣室の賃借人の子(22歳)が仲間とオートバイでアパート付近を走り回り、さらには隣室で深夜に酒盛りをしたり、1階のエントランスでシンナー等を使用していたりするところを見ました。その騒音にはほとほと悩まされているうえ、時に危険も感じるので何とかしてほしい」とのクレームがありました。騒いでいるのは賃借人ではなく、その成人した子なのですが、賃貸人は、賃貸借契約上、その子の行為をやめさせる義務を負っているのでしょうか。注意しても改善されない場合はどのような方法をとることができるのでしょうか。


Answer
建物の賃貸人は、賃貸借契約に基づき、賃借人に建物を使用収益させる義務を負っていますが、この使用収益させる義務の内容は、使用収益が可能な状態で建物を賃借人に引き渡せば履行が完了するものではありません。引渡し後も建物を賃借人の使用収益に適する状態を保持し、使用収益に適さない状態になっているときは、その状況を改善し、賃借人の使用収益に適する状態に回復する義務が含まれると解されています。迷惑行為をしているのが賃借人ではなく、その子であるとしても、子は賃借人の履行補助者と解されます。その状態を賃借人が放置していることは賃借人の用法遵守義務違反と考えられますので、賃貸人は賃借人の責任を問い、状態の改善を求めることができます。賃貸人の再三の制止・警告にもかかわらず賃借人側の迷惑行為がやまず、それが受忍限度を超えるときは、賃貸人は、賃借人の用法遵守義務違反により信頼関係が破壊されていることを理由に賃貸借契約を解除することができます。
1.賃貸借契約において当事者が負担する義務の内容
(1)賃貸人の賃貸借契約に基づく義務
改正民法601条は、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定めていますが、賃貸人の、目的物を賃借人に使用収益させる義務とは、建物を使用収益に適する状態において賃借人に引渡しを済ませれば、それで義務が終了するものではないと解されています。賃貸人は、目的物の引渡し後も、賃料を収受する以上は、目的物を使用収益に適する状態に維持する義務を負うということで、それゆえに、賃貸人は賃貸目的物に対する修繕義務が課されているのです(改正民法606条)。
(2)賃借人の賃貸借契約に基づく義務
賃借人は、賃料支払義務を負うことは当然ですが、同時に、目的物を用法に従って使用収益する義務を負うと解されています。したがって、共同住宅においては、各入居者が住居としての使用が果たせるように、静謐(せいひつ)を保ち、住環境を破壊することのないよう使用収益する用法遵守義務を賃借人は負っているのです。
2. 賃借人の他の入居者に対する迷惑行為
このように見れば、賃借人は、ただ賃料さえ支払えばよいわけではなく、用法に従って賃借物を使用収益する必要があるわけですから、オートバイでマンション付近を走り回り、さらには隣室で深夜に酒盛りをして騒いだり、1階のエントランスでシンナー等を使用したりする行為は、住民の生活を乱すものであり、また住環境を著しく破壊する行為であるということになります。ご質問のケースでは、迷惑行為を行っているのは賃借人本人ではなく、成人した賃借人の子であるということのようですが、親と子は別人格ではありますが、賃貸共同住宅において、賃借人の子が近隣住民に迷惑行為を行っている場合、子は賃借人の履行補助者と考えられ、賃借人はそれを制止すべきであると考えられます。同時に、賃貸人は、目的物を使用収益に適する状態に保持する義務がありますから、賃借人に対して、迷惑行為をやめさせる法的義務を負っていると考えられます。したがって、賃貸人は、賃借人に対し、迷惑行為を停止させるよう通知し、再三の通知にもかかわらず、賃借人が迷惑行為を停止しない場合で、その迷惑の程度等から、それが信頼関係を破壊するに足りる場合には、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができ、また、そうすべき義務を他の賃借人に対し負担しているものと考えられます。
賃貸人と賃借人の義務
迷惑行為による契約解除
今回のポイント
建物の賃貸人は、賃貸借契約に基づき、賃借人に建物を使用収益させる義務を負っているが、建物を使用収益させる義務は、建物を使用収益が可能な状態で引き渡せば終了するものではなく、引渡し後も建物を使用収益に適する状態を保持する義務を負う。
共同住宅において、賃借人が、他の入居者の迷惑になる行為を行うことは、賃借人の用法遵守義務違反となる。
迷惑行為を行っているのが賃借人ではなく、賃借人の成人に達した子であるとしても、賃借人の履行補助者と考えられるので、この迷惑行為を放置している賃借人の義務違反と考えられる。
賃借人の行為が他の入居者に与える迷惑が受忍限度を超え、用法遵守義務違反が賃貸借の当事者間の信頼関係を破壊するに足りる場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる。

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江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所
弁護士
江口 正夫
1952年広島県生まれ。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』(2009年8月、にじゅういち出版)など多数。

過去の自死事故の告知をめぐるトラブル

不動産あるある
09 /23 2022
売買・賃貸に限らず、取引物件で発生した過去の事故・事件について媒介業者が知っており、なおかつ当該事故・事件が買主等の取引の判断に重要な影響を及ぼすものである場合、媒介業者には告知義務があります。今回は、過去の自死※事故の媒介業者の告知について考えます。
※自死=自殺を「自死」と呼ぶ取組がされていますので、本稿は自死とします。
トラブル事例から考えよう
〈事例1〉 隣接地の建物での3カ月前の自死事故
Aは、宅建業者Bの媒介で中古一戸建て住宅を購入し、引渡しを受けた。入居後、知り合いになった住民から、3カ月前頃に隣家の家族の1人がA宅との境界近くに建っている小屋の中で自死したことを聞いた。AはBに対し「隣の家の小屋で自死事故があったことを聞いた。事故のあった小屋はこちらとの敷地境界線近くに建っており、家族が怖がっている。隣の家で自死事故があったことを知っていたら購入しなかった」と言い、Bには告知義務違反があるとして、仲介手数料の全額返還および売買代金の10%相当の損害金の支払いを求めている。これに対し、Bは「隣の家の自死事故については知っていたが、取引物件に直接関係することではなく、告知義務違反はない」として、Aの請求を拒否している。
取引物件の隣地建物における自死事故についての告知はどう考えたらよいか。
事例の図
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〈事例2〉 アパート貸室の4年前の自死事故
Cは、宅建業者Dの媒介でアパートの一室を借りて入居した。入居後、隣の部屋に入居の挨拶に行ったところ、居住者から、Cが借りた部屋では4年前に当時の入居者が自死したことを聞いた。CはDに対し「この部屋が事故物件であることをどうして説明しなかったのか。事故物件であることを知っていたら契約しなかった」として、貸主に対しては契約の解除を求め、媒介業者Dに対しては、告知義務違反があるとして、仲介手数料の返還および解除により生ずる引っ越し料等の損害金の支払いを求めている。これに対しDは「事故は4年前であり、その間、2人の借主がそれぞれ2年間居住して何の問題も生じていないことから、特段に説明はしなかったもので、告知義務違反はない」として、Cの請求を拒否している。
貸室の過去の自死事故についての媒介業者の告知はどう考えたらよいか。
事例の図
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01
隣接地建物での自死事故の告知〈事例1〉
取引対象物件に存在する過去の自死事故が、購入者等の取引の判断に重要な影響を及ぼすものであるときには、売主は当然のこと、そのことを知っている媒介業者にも告知義務がありますが、取引対象物件に隣接する物件での自死事故はどう考えたらよいでしょうか。
隣地建物であっても嫌悪感等の感じ方は人それぞれであり、気にならない人がいる反面、事例の買主のように恐怖感や嫌悪感を抱く人もいます。しかし、自死事故があった建物に生じる嫌悪感とその隣地建物に生じる嫌悪感とは程度に大きな差があり、一般的には、隣地建物に心理的欠陥といえるまでの嫌悪感は生じないと考えられます。そうすると、告知を必要とする特段の事情がない限り、売主や媒介業者に、隣地建物での自死事故についての告知義務はないといえます。
なお、トラブル防止の観点からは説明しておくことが望ましいとはいえますが、事故があった隣地建物が空き家ではなく居住者がいる場合には、居住者のプライバシーや平穏な生活を害する言動は許されませんので、説明することはできないことに注意します。
02
貸室の自死事故の告知〈事例2〉
過去に自死事故があった部屋を賃貸する場合、賃貸人およびそのことを知っている代理・媒介業者には、入居希望者にそのことを告知する義務がありますが、年数の経過、入居者の入れ替わり等の要因により、嫌悪感は希釈されていくものと考えられます。このことについて、東京地裁平成19年8月10日判決は、「自殺事故による嫌悪感も、もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え、一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、当該賃借人がごく短期間で退去したといった特段の事情がない限り、新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間生活をすること自体により、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものである」との考え方を示しています。そのうえで、裁判所は、「事故後の最初の賃借人に対しては、貸室内で自殺事故があったことを告知すべき義務があるが、当該賃借人がごく短期間で退去したといった特段の事情が生じない限り、当該賃借人が退去した後に、本件貸室をさらに賃貸するに当たり、賃借希望者に対して本件貸室内で自殺事故があったことを告知する義務はない」と判示しています。
本事例をこの裁判所の考え方に照らすと、賃貸人および媒介業者は、事故後、当該貸室に特段の問題が生じていないことから、3番目の賃借人に対し、告知義務はないといえます。
■告知方法について
取引の判断に重要な影響を及ぼす事項の告知方法は、「宅建業法35条の重要事項説明は、必ず書面を交付してこれを行うことが義務付けられているが、法47条1号による告知は、書面によるものに限らず、相手方が『重要な事項』を認識し得る状態に置くことを指す。たとえば、口頭で告げるだけでも告知に該当し、また説明をしないまま書面を相手方に交付しただけでも告知したことになる」 (「わかりやすい宅地建物取引業法」著:周藤利一・藤川眞行編集:一般財団法人不動産適正取引推進機構 294頁 2(2))とされています。
このように、過去の事故・事件等の「取引の判断に重要な影響を及ぼす事項」の告知方法は、必ずしも重要事項説明書に記載のうえで行うことまでは要求されておらず、買受希望者等がその事項について「認識できる状態」に置けばよいとされています。したがって、過去の事故・事件等の存在について重要事項説明書に記載せずに、口頭で告知することでも宅建業法上の説明義務を果たすことを知っておきましょう。ただし、口頭のみで説明した場合に告知の有無が争われたときには、告知したことの立証が必要になりますので、実務は、書面に記載して告知することを原則として対応しましょう。

野田綜合法律会計事務所
公認会計士・税理士

野田 優子

1995年公認会計士第二次試験合格。Price Waterhouse Coopers(PwC)国際部(現あらた監査法人)、大手税理士法人を経て2006年に独立し、野田綜合法律会計事務所設立。不動産に関する税務全般業務およびコンサルティング業務をメインに、相続および事業承継関連、M&A支援業務、上場支援業務、法人税申告業務などを行う。


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水害ハザードマップ上の対象物件の位置の説明

不動産あるある
09 /22 2022
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Q.
宅建業法施行規則が改正され、水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップ(以下「ハザードマップ」)上の記載状況が重要事項になったと聞きました。浸水想定区域の外の賃貸物件を仲介する場合にも、説明が必要なのでしょうか。


Answer
1.区域外、賃貸でも重説義務あり
取引対象の所在地がハザードマップに表示されているときには、浸水想定区域の外にある場合でも、重要事項説明において、ハザードマップにおける位置を示さなければなりません。売買に限らず、賃貸借であっても、重要事項説明を行う義務があります。
2. ハザードマップにおける所在地の説明
(1)水害リスク情報の重要事項説明への追加
さて、宅建業者は、宅地・建物の売買・交換・貸借の相手方等に対して、その者が取得し、または借りようとしている宅地・建物に関し、その売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、書面を交付して所定の重要事項の説明をさせなければなりません。ここで、所定の重要事項については、宅建業法で明記されるほか、宅建業法施行規則にも、定められています(宅建業法35条1項14号イ)。
ところで、平成30年7月豪雨、令和元年台風19号、令和2年7月豪雨など、最近、甚大な被害をもたらす大規模水災害が頻発しています。このような状況において、不動産取引を行う際には、水害リスクに係る情報が、契約締結の意思決定を行ううえで重要な要素となります。そのために、宅建業法施行規則が改正され、説明すべき重要事項として、ハザードマップにおける宅地・建物の所在地が追加されました[2020(令和2)年8月28日施行]。売買・交換だけではなく、賃貸借においても、説明すべき重要事項になります。ハザードマップとは、水防法に基づいて市町村の長が提供する図面の呼称です(水防法15条3項、同法施行規則11条1号)。市町村のHPから入手することが可能であり、また、市町村によっては、紙での配布を行っているところもあります。

(2)重要事項としての説明事項
説明すべき重要事項に追加されたのは、取引対象の位置がハザードマップに表示されているときの、ハザードマップにおける取引対象の所在地です(宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2)。

説明の具体的な方法としては、ハザードマップを示しながら、取引対象となる物件の位置を示す必要があります。ハザードマップを重要事項説明書の添付図面としたうえで、添付図面に印をつけ、本文中には「別紙のとおり」または「別添ハザードマップ参照」などと記載することが想定されます。なお、説明においては、ハザードマップにおいて対象物件の地番まで正確に示すことが求められるものではなく、おおむねの位置を示せば足りるものとされています。

取引対象が浸水想定区域の外にあっても、ハザードマップの地図上に表示されているときには、その位置を示さなければなりません。なお、浸水想定区域の外であるからといって、水害のリスクがないと取引の相手方が誤認することがないような配慮を要するとされています[宅地建物取引業法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A3-5、3-8]。
(3)そのほかの説明事項
ハザードマップは、時の経過とともに、最新の状況に応じて、更新されるものです。したがって、重要事項説明を行うに際しては、ハザードマップが将来的には更新されていくことも併せて伝えておくべきでしょう。また、宅建業法上義務づけられているのは、ハザードマップ上の取引対象の所在地ですが、水害が生じた場合には避難しなければならなくなりますから、重要事項の説明に際しては、併せて、近隣にある避難所の説明をすることが望ましいと考えられます。
3. まとめ
今般、ハザードマップに関する事項が重要事項説明の対象に加わりましたが、宅建業者は、水害について必ずしも詳しいわけではありません。顧客から、ハザードマップの記載内容についてより詳しい説明を求められた場合には、ハザードマップを作成した自治体に問い合わせるように回答するべきです。ハザードマップの説明は新しい制度であって、宅建業者もまだ不慣れだと思われますが、後日のトラブルが生じないように、慎重に対処しなければなりません。
今回のポイント
宅建業法施行規則が改正され、重要事項説明において、取引物件がハザードマップにおいてどの位置に所在するかを説明しなければならなくなった。同規則の改正は、令和2年8月28日に施行されている。
ハザードマップとは、水防法に基づいて市町村の長が提供する図面である。市町村のHPから入手することが可能であり、また、市町村によっては、紙での配布を行っているところもある。
具体的な説明方法としては、重要事項説明書に、ハザードマップを添付して印をつけたうえで、本文中には「別紙のとおり」または「別添ハザードマップ参照」などと記載しておき、実際に説明をするに際して、ハザードマップを示しながら、取引対象となる物件の位置を示すなどの方法が考えられる。


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さいたま市桜区で妻と、ラブラドルレトリバー♀【はな】2014年8月生と、ゴールデンレトリバー♀【ワルツ】2018年5月生と暮らす、(株)ウィズの岩端秀明(いわばたしゅうめい)と申します。ペット共生型物件を主に取扱い致します。
最近までタクシーの運転手とWワークしていましたが、長期入院を機に不動産業に専念することにいたしました。微力ではございますが、ペット共生型物件をより普及するために精進いたします。