建物賃貸借――修繕費用の負担をめぐるトラブル

不動産あるある
09 /21 2022
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建物の賃貸人は、雨漏りや設備の故障などで賃貸物の使用・収益に支障が生じたときには必要な修繕を行う義務を負っていますが、契約締結時における賃貸物件の状況や賃貸事情があるなかで契約内容は様々であり、修繕費用の負担をめぐりトラブルが生じています。

トラブル事例から考えよう

事例1. 高額の修繕費用と修繕特約
管理しているアパートの借主Aさんから「風呂釜が故障した」と管理会社Bに連絡がありました。設備業者に見てもらったところ、「この風呂釜は古くて修理対応は危険なので新しい風呂釜に取り換える必要がある」として取替費用12万円の見積りの提示を受けました。アパートは築20年が経過し、各設備も耐用年数を過ぎています。契約書には「風呂釜等の設備が故障したときの修理費用または取替費用は借主負担とする」旨の修繕特約が付されています。Aさんに対し、「修理対応ができず、取替工事費用に12万円ほど必要になること」および「取替工事費用は特約により借主負担となる」旨を伝えたところ、Aさんは「2万円は負担してもよいが、高額の費用を全額負担することはできない。貸主には修繕義務があるのだから、この特約は無効ではないか。早く取り替えてほしい」と言い、貸主Cさんは「借主が取替費用全額の負担を承諾しない限り、工事はしない」と言います。
①借主の修繕特約無効の主張はどのように考えたらよいか。
②貸主が取替工事を行わない場合、借主はどのような対応ができるか。
③管理会社には、どのような対応が求められるか。

01
修繕特約の効力〈事例1〉
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決めることができるので(民法521条2項。契約自由の原則)、修繕を賃借人負担とする修繕特約も原則として有効です。しかし、裁判所は、修繕特約は軽微な修繕について有効であり、大修繕を賃借人負担とする効力まではないと解しています。本事案の12万円の修理費用は軽微な修繕とはいえませんので、裁判上で争うと特約の全部または一部の効力が否定される可能性が高いと思われます。なお、判例は、「修繕は賃借人負担とする」旨を定めた修繕特約は、賃貸人の修繕義務を免除したものであり、賃借人に修繕義務が生じたものではないと判示していることにも留意します(最判昭和43.1.25)。

■賃借人の修繕権限
2020年4月1日に施行された改正民法は、賃貸人に負担義務がある修繕について、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知しても、修繕をしないときは、賃借人は自ら修繕できることを明文化しました(民法607条の2。賃借人の修繕権限)。本事案においても賃貸人が修繕を実施しないときは、賃借人は自ら修繕工事を実施して、支払った修繕費用については、賃貸人に償還請求することができます(民法608条)。

■管理会社の対応
賃貸人、賃借人は、特約の効力について争うのではなく、費用の負担割合について話し合うことが望まれます。管理会社は、当事者双方に裁判所や法律の考え方について丁寧に説明して理解を求め、解決のための助言、提案を行うことが必要です。


事例2. 前入居者が置いていったエアコンの修理費用

仲介したアパートの借主Dさんから、「エアコンが故障していたので電気店に見てもらったところ、修理に3万円かかると言われたので、管理会社Eに電話したところ『そのエアコンは前入居者Fが置いていった残置物であり貸主は修繕義務を負いません。使用するのであれば修理費用はDさんの負担となります』と言われたが納得できない。修理して使えるようにしてほしい」と連絡がありました。重要事項説明の付帯設備表のエアコンの有無については「無」に〇をつけ、備考欄に「前借主が残置したエアコン有、使用可」と記載しています。
なお、当該エアコンは、Fさんが貸主Gさんから収去義務の免除を受けて置いていったものです。
①貸主は修繕義務を負わないとする管理会社の説明は適切か。
②媒介業者の重要事項説明は適切か。
③修繕トラブル防止のために、どのような対応が考えられるか。

02
賃貸人の修繕義務〈事例2〉

当該エアコンは、明渡しに際し、賃貸人が前賃借人のエアコン収去義務を免除した時点で、前賃借人から賃貸人に無償譲渡され、所有権が前賃借人から賃貸人に移転したと考えられます。つまり、当該エアコンは、賃借人が退去時に賃貸人に無断で放置した残置物ではなく、賃貸人に所有権のあるエアコンであり、「このエアコンは、前賃借人の残置物だから賃貸人には修理義務はない」という管理会社の主張は失当となります。賃貸人は賃借人に対し、エアコン付の建物を賃貸しているので、そのエアコンが故障した場合、賃貸人は、当然に、エアコンが正常に使用できる状態にする義務があり、修理費用を負担しなければなりません。

■媒介業者の重要事項説明
付帯設備表にエアコンは「無」と記載し、備考で使用可の残置エアコンがある旨を説明していますが、賃貸人の所有物となったエアコンが設置されている状態で賃貸するのですから、エアコンは「有」として説明することが必要です。

■修繕トラブル防止の方策
譲り受けた前賃借人のエアコン等の設備について、賃貸人が修繕義務を負いたくない場合、修繕特約での対応が一般的ですが、修繕特約の効力は争われるリスクがあります。
修繕トラブル防止の方策として、次の賃借人に賃貸するにあたり、当該エアコン等の設備を無償で賃借人に譲渡する方法が考えられます。賃借人に無償譲渡する場合は、その旨を契約の特約として明記しておきます。なお、賃借人が使用しない場合は撤去することになります。

【賃借人に譲渡する場合の特約例】
①賃貸人は、洋室に設置のエアコンを無償にて賃借人に譲渡するものとし、賃借人はこれを譲り受けました。本エアコンが故障した場合の修理費用は、賃借人の負担となります。
②賃借人は、第〇条の建物の明渡しに際し、前項のエアコンを賃借人の負担で撤去しなければなりません。

賃貸住宅管理業の法制化とサブリース業者の契約適正化の法制化 – 登録義務付けとサブリース業務の準則遵守 –

不動産あるある
09 /20 2022
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賃貸住宅管理業の重要性が高まるなか、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定されました。この法律が施行されると、一定の規模以上の賃貸住宅管理業者は管理業務を行うには登録が義務づけられ、また、サブリース業者は、法律が定めた業務準則を遵守してサブリース業を営むことが必要になります。

法制化の背景と内容

賃貸住宅管理業については、2011年9月30日の国土交通大臣告示により登録制度が創設されました(施行は同年12月1日)。この登録制度では、賃貸住宅管理業務の適正な運営を確保し、賃貸住宅管理業の健全な発達を図り、もって賃貸住宅の賃借人等の利益の保護に資することが目的とされ、併せて、賃貸住宅管理業とサブリース業についての業務準則が定められました。
もっとも、この登録制度は登録するか否かが任意の制度であり、法律の裏付けがなかったこともあって、オーナーの高齢化が進むなか、今後も賃貸住宅管理業の重要性が増大すると考えられるのにもかかわらず、2018年12月時点での登録業者数は4,287業者にとどまっていました。また、近年、サブリース契約を巡ってはさまざまなトラブルが報道されるなど、問題が頻発するに至りました。
このような問題意識は、国土交通省が2019年4月に公表した「不動産業ビジョン2030」でも明らかにされ、「2030年に向けて重点的に検討を要する主な政策課題」の中では、賃貸住宅管理業者登録制度は「中小規模事業者に配慮し、法制化も視野に入れた検討を進めるべきである」とされました。
このような経緯を経て、2020年3月6日、サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化のための措置を講ずるとともに、賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設け、その業務の適正な運営を確保する「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」(図表1)が国会での審議を経て6月12日に可決成立し、6月19日に公布されました。

図表1 法律の概要

サブリース事業者と所有者の間の賃貸借契約適正化

〇誇大広告等の禁止
〇重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為等の禁止
〇マスターリース契約締結前に書面を交付して重要事項を説明する義務
〇マスターリース契約締結後遅滞なく書面を交付する義務
〇書類の備置きおよび閲覧させる義務

賃貸住宅管理業者の業務処理準則

〇信義を旨とし、誠実にその業務を行う義務
〇名義貸しの禁止
〇業務管理者選任義務
〇管理受託契約の締結前に書面を交付して重要事項を説明する義務
〇管理受託契約締結後遅滞なく書面を交付する義務
〇一括再委託契約
〇財産の分別管理義務
〇従業者証明書を携帯させる義務
〇帳簿の備付け、保存義務
〇標識の掲示義務
〇委託者への定期報告義務
〇守秘義務


サブリース業者に対する規律


法律では、第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結される賃貸借契約(マスターリース契約)を「特定賃貸借契約」と定義し、いわゆるサブリース業者を「特定転貸事業者」(特定賃貸借契約に基づいて賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者)と定義しています。
同法が施行されると、すべての特定転貸事業者には、特定賃貸借契約(マスターリース契約)の勧誘にあたり、①広告での家賃や賃貸住宅の維持保全方法や契約解除に関する事項等について優良誤認させるような表示の禁止、②契約の相手方に対し、重要な事項について故意に事実を告げずまたは不実のことを告げる行為の禁止等の規律が課せられます。また、③特定賃貸借契約(マスターリース契約)前に、書面を交付して重要事項説明を行わなければならず、④契約が成立した場合には、法定の事項を定めた書面を交付しなければならない旨が規律されました。
これらの規律は、特定転貸事業者だけではなく、特定賃貸借契約(マスターリース契約)の締結を勧誘する者(勧誘者)にも適用されます(図表2)。
図表2 サブリース業における賃貸借契約適正化の措置
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出典:国土交通省ウェブサイト「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案 概要」より抜粋・編集

賃貸住宅管理業者に対する規律


法律では、賃貸住宅の維持保全を行う業務と家賃等金銭の管理を行う業務を「管理業務」と定め、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて管理業務を行う事業を「賃貸住宅管理業」と定めました(図表3)。そのうえで、国土交通省令で定める事業規模未満の者(まだ国土交通省令は公表されていません)を除き、賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けることが義務付けられました。
登録を受けた賃貸住宅管理業者は、法律が定めた業務準則を遵守しなければなりません。例えば、賃貸住宅管理業者は、①名義貸しが禁止されるほか、②その営業所または事務所ごとに、一定の知識および能力を有する「業務管理者」を1人以上選任しなければなりません。また、管理受託契約の締結に関しては、賃貸住宅管理業者は、③契約締結前に、委託者である賃貸人に書面を交付して重要事項を説明しなければならず、④管理受託契約を締結した場合には、委託者である賃貸人に対し、遅滞なく、法律が定める事項を記載した書面を交付しなければなりません。管理業務にあたっては、⑤管理業務で受領した金銭と自己の財産および他の管理受託契約において受領した金銭とを分別して管理しなければならず、⑥従業者には従業者証を携帯させて業務に従事させなければならず、⑦管理業務の実施状況等について、定期的に、委託者に報告しなければなりません。
図表3 賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設
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留意点


サブリース業者に対する規律は、法律の公布から6カ月以内に施行され、賃貸住宅管理業者に対する規律は、法律の公布から1年以内に施行されます。したがって、宅建業者でこれらの業務を行う者は、法律の施行までに、対応の準備をしなければなりません。法律違反に対しては行政処分がなされるほか、無登録営業や名義貸しには1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科されることもある)が処せられ、さらに業務準則違反にも罰金刑等が定められています。万全の準備で法律の施行に臨みたいところです。

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熊谷 則一
涼風法律事務所
弁護士
熊谷 則一(くまがい のりかず)
栄光学園高校、東京大学法学部卒。建設省(現国土交通省)勤務を経て、1994年4月に弁護士登録。「賃貸住宅管理業等のあり方に関する検討会」委員として賃貸住宅管理業登録制度や賃貸住宅管理業の適正化における検討に参加。

不動産売買契約の解除をめぐるトラブル

不動産あるある
09 /19 2022
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不動産売買で特に多いトラブルに、①宅建業者の重要事項説明に関するもの、②土地・建物の瑕疵(性能や品質の欠陥)に関するもの、③契約の解除に関するものがあり、この3つが「売買の三大トラブル」といえます。本号では契約の解除に関するトラブルを取り上げます。

トラブル事例から考えよう

事例 手付放棄による契約解除
7月1日に新築建売分譲住宅を見学したAさんは、担当者から契約を強くすすめられましたが「今日は見学に来ただけでお金も用意していないし、家族でよく検討してから決めたい」と何度も断りました。しかし、「今日契約すれば50万円値引きする」などと繰り返し契約を求められ、売主の宅建業者の事務所で重要事項説明を受け、自己資金100万円、残金は銀行借入とする資金計画で契約をしました。当初、100万円を手付金とする予定でしたが、当日用意できる20万円を手付金とし、80万円を内金とする契約書が作成され、当日20万円、3日後の7月4日に内金として80万円を支払いました。後日、売主業者の担当者が銀行へのローン申込代行手続を行い、融資承認も得られました。しかし、駅までの距離等が気になっていたAさん家族は話合いの結果、契約を解除することにしました。8月2日にAさんが売主業者に対し、手付金を放棄して契約を解除する旨を申し出たところ、売主業者から「すでに7月31日の手付解除期日を過ぎており、また融資承認による履行の着手もあることから、手付放棄による契約の解除はできないので、違約条項に基づく違約金200万円が発生する」として、100万円の追加支払いを求められました。
Aさんは急がされて契約をさせられたのに違約金の請求は納得できないとして、手付放棄による契約の解除を主張しています。
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01
手付解除期日と宅建業法
手付契約では、契約を早期に安定させるために手付解除期日を設定するのが通常です。この場合、手付解除期日を契約日から数日の短期間に設定することは、民法が手付解除権を付与している趣旨に反することから、相当の期間経過後の期日とすることが望まれます。手付解除期日が設定されると、手付解除権を行使できるのは手付解除期日までに制限されます。
ただし、売主が宅建業者の場合、買主は、売主が契約の履行に着手するまでは、手付を放棄して契約を解除することができます(宅建業法39条2項)。これに反する買主に不利な特約は無効となり効力を持ちません(同条3項)。したがって、本件の手付解除期日は無効であり、売主に契約の履行がない限り、買主は、手付の放棄により契約を解除することができます。
02
履行の着手と民法
改正された民法の手付に関する557条1項の規定は、判例法理(最高裁昭和40年11月24 日判決)に基づき、履行の着手により手付解除権の行使ができなくなるのは、相手方が契約の履行に着手したときであることを明文化しました。また、売主は、手付の倍額を現実に提供することが必要であることも明文化しています。
民法557条1項
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
本件の売主宅建業者は、銀行の融資承認による履行の着手も理由の1つとして、買主の手付解除権が消滅していると主張していますが、仮に融資承認が得られていることが履行の着手に当たるとしても、融資の申込みから承認に至るまでの履行の着手は、買主が行ったものであり、売主の履行の着手ではありませんので、本件買主は手付を放棄して契約を解除することができます。
03
宅建業者の行為と宅建業法
■契約の判断に必要な時間を与えない行為
宅建業法は、正当な理由なく、相手方が当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為を禁止しています(宅建業法施行規則16条の12第1号ロ)。
本件買主は急がされて契約させられたと主張しています。確かに急がせて判断に必要な時間を与えなかった側面はありますが、最終的には「50万円の値引きの提示」が買主の契約の判断に大きく影響しているとも思われ、当該行為による宅建業法違反があるとまではいえないと思われます。
■手付と内金に分割して契約した行為
宅建業法47条3号は、「手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為」を禁止しています。「その他信用の供与」に当たる行為として、①手付の後払い、②手付の分割払いにより契約の締結を誘引する行為があります。手付後払い、手付分割の違反行為は少なくないので注意が必要です。
本件の売主宅建業者は、当該条項の適用を避けるために当初予定の手付金100万円について、当日支払い可能な20万円を手付金とし、80万円は売買代金の内金としています。トラブル防止の観点から、買主が100万円を準備できてから「手付金100万円」として契約をするのが適正な方法であることは当然のことですが、手付と内金に分けて契約を締結したことが宅建業法違反とまではいえません。
■正当な理由なく手付解除を拒む行為
本件の買主は、前述の 01 02 のとおり、手付を放棄して契約を解除することができます。
宅建業法は、買主が手付を放棄して契約を解除するに際し、宅建業者が正当な理由なく、これを拒み妨害する行為を禁止しています(宅建業法施行規則16条の12第3号)。
本件の売主宅建業者は、宅建業法違反での行政処分を受けることがないように、買主の手付解除の申出に応じて違約金の請求を取り下げるとともに、内金として受領した80万円を速やかに返還することが必要です。

建物賃貸借における原状回復をめぐるトラブル

不動産あるある
09 /18 2022
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賃貸借契約が終了すると、賃借人には、賃借期間中に賃借物に生じさせた損傷があるときは、その損傷を修復して明け渡さなければならない原状回復義務があります。この原状回復をめぐり、賃貸人(または管理会社)と賃借人との間で多くのトラブルが生じています。

事例1. 賃借人が損傷等を生じさせたことの立証責任
Aさんがアパートを退去しましたが、壁クロス・建具・下駄箱等にキズ、汚れがあることから、管理会社はAさんに対し、これらのキズ・汚れはAさんが入居期間中につけたものであるとして補修費用を請求しています。しかし、Aさんは、これらのキズ、汚れは入居当初からあったもので自分がつけたものではないと主張しています。管理会社はAさんに対し、入居期間中につけたキズ、汚れでないのであれば証明するよう求めています。


事例2. 原状回復特約による請求
2年間借りた賃貸マンションを退去したBさんは敷金20万円を預け入れていますが、原状回復費用として30万円の請求を受け、10万円の追加支払いを求められています。Bさんはタバコも吸わず、気を付けて生活していたので、キズ、汚れもつけておらず、退去に際してはできる限りの清掃を行い、ゴミも処理しているとして敷金20万円全額の返還を求めています。これに対し、管理会社は、契約の原状回復特約(建物明渡し時の室内クリーニング費用、クロス・じゅうたんの張替費用、エアコンの清掃費用等は賃借人負担とする)に基づくものであり、正当な請求であると主張しています。


01
入退去時の物件状況確認〈事例1〉
国土交通省の「原状回復ガイドライン※1」は、原状回復トラブルを防止するために、入・退居時に賃貸人と賃借人が立会いのうえで、建物・部屋の状況確認を行い、賃借人負担となるキズ・汚れ等を双方で確認することが望ましいとしています。入居時の立会い確認がないことは少なくないようですが、退去時だけの立会いでは入居時の状況が確認できていないので、入居中に生じたキズ・汚れ等なのか判然としません。退去時だけの確認で、入居時の確認をしていなかった場合、事例のようなトラブルが生じることになります。
※1 原状回復ガイドライン:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(平成23年8月再改訂)
■立証責任は賃貸
賃借人は、自分が生じさせたものではなく、入居時に既に存在していた損傷等の修復費用を求められても負担義務はありませんので、その旨を主張すればよく、損害を生じさせていないことの立証責任はありません。賃貸人は、賃借人が否定するその損傷等の損害の賠償を求めるのであれば、賃借人が入居中に生じさせた損害であることを立証しなければなりません。立証責任は賃貸人にあります。


02
原状回復特約の効力〈事例2〉
契約自由の原則(新民法※2 521条)から、強行規定に反しない特約であれば、賃借人に一方的に不利なものであっても原則として有効です。しかし、原状回復ガイドラインは、次の3つの要件を満たしていなければその効力が争われるとして、賃貸人に対し、注意を喚起しています。
①特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
②賃借人が特約により通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことを認識していたこと。
③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
原状回復特約の効力を争う裁判では、賃借人側は「信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項は無効」とする消費者契約法10条により無効主張をすることが多くみられます。
※2 新民法:2020年4月1日に改正施行された民法


■新民法と賃借人の原状回復義務
最高裁は、賃借物件の損耗の発生は賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであり、賃貸人は、通常使用による劣化、損耗に係る経費は賃料に含ませているとし、通常損耗、経年変化について賃借人に原状回復義務はないことを判示しています。また、原状回復ガイドラインは、賃借人の原状回復を次のように定義して、賃借人が負う原状回復義務の範囲を示し、通常損耗および経年変化(自然損耗)についてはその対象に含まれない考え方を示しています。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること。
改正後の新民法は、判例、原状回復ガイドラインで示されている現行の賃借人の原状回復ルールを法律として明文化したものです。
新民法621条
(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
賃借人に特別の負担を求める原状回復特約の有効性のハードルはさらに高くなったといえます。
■事案の考え方と解決方法
契約で約束したことは守らなければなりませんが、特約があればすべてが賃借人の負担になるということではありません。原則として、賃借人が生じさせた損傷等でなければ賃借人に負担義務はありません。当事者間の話合いによる解決が困難である場合、賃借人は少額訴訟制度を利用して敷金の返還を求めることが可能です。特約の効力、適用は裁判所が判断してくれます。

古くなってきた賃貸物件②

不動産あるある
09 /17 2022
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バブル期の大量に建てられた賃貸物件。

信じられない程の高値で売り買いされました。その状況は皆様もご存知の通りです。
バブルがはじけると、大きな企業でも不良資産を大量にかかえたり、倒産したりしました。個人でも、たくさんの方がアパート、マンションを建てたり購入したりしていました。そして、時間が経つにつれ所有している賃貸物件には問題が出てきました。
高値で買ったアパートも段々古くなり、最近のハウスメーカーの建てる新築物件がどんどん市場に出回っています。取り残された形の古いアパートは、アパートと共に大家さんも高齢になります。
一軒のワンルームアパートは、今年に入り8室中の4室が退居になりました。なかなか直すのも費用がかかり、簡単には満室になりません。
そこで、大家さんが来店され話し合いました。

大家さんがいなくなったら、空室も増えてしまった

このアパートの元々の大家さんは、高齢になり数年前から介護施設に入居されていました。
介護施設は、月々結構な費用がかかります。アパートの賃料収入が入居費用に当てられる、とお嬢様が言われていました。それもあり頑張って募集をし、幸いにもその施設に入居中、アパートはほぼ満室の状態が続きました。
洗濯機も置けず、小さなロフト付ワンルームなので、それ程高いお家賃は取れませんでしたが、施設の費用はまかなえました。
そして、遂に大家さんは亡くなられました。
すると、それを見たように退居が続き遂には半分が空いてしまいました。
最初は、傷みのひどいお部屋以外はクリーニングと少々の直しで募集していました。
ところが、最後に退居された部屋では、長期間入居されていた事もあり、退居後の部屋の傷みと汚れは、かなりひどいものでした。改修費用はかなりかかりそうです。
ただし、多額の修理費用をかけたとして、それ程の家賃は期待できません。
一部屋の修理費用を回収するのだけでも3年はかかると思われます。
更にやはり、外回りも手を入れる時期になっています。
それだけの費用をかける必要があるのか、という話になりました。

アパートの存続は難しい。

もちろん、大々的にリノベーションをするという方法もありますが、あまり適さない物件に思えます。
それに、相続されたお嬢さんも定年を迎えられ、この先アパートを維持していっても大変なだけで意味がありません。
幸い、この賃料がなくても何ら生活に支障はないし逆に楽になるようです。
購入時には一億もした、このアパートも今ではいくらになる事か。
この先、人気の無いこのタイプのアパート。解体しよう、というお話になりました。
そのためには、入居者の方に退居して頂く必要があります。
立退き問題は、続いていきます。

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withPets館へようこそ‼
さいたま市桜区で妻と、ラブラドルレトリバー♀【はな】2014年8月生と、ゴールデンレトリバー♀【ワルツ】2018年5月生と暮らす、(株)ウィズの岩端秀明(いわばたしゅうめい)と申します。ペット共生型物件を主に取扱い致します。
最近までタクシーの運転手とWワークしていましたが、長期入院を機に不動産業に専念することにいたしました。微力ではございますが、ペット共生型物件をより普及するために精進いたします。